慢性硬膜下血腫 上勝町診療所 武市和憲

公開日 2011年02月24日

ふらついて転倒する高齢者の方は多くいます。その際、頭部を打撲することもあると思いますが、そんなときは気をつけなければいけません。慢性硬膜下血腫という病気の原因にもなりうるからです。
慢性硬膜下血腫とは、頭部打撲後、頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜と下の脳との隙間に血液(血腫)が溜まる病気です。頭部打撲から3週間~数カ月以内に発症します。高齢者の男性に多くみられ、その他の発症に影響する因子として

 

1.大酒家


2.脳に萎縮がある(頭蓋骨と脳の間に隙間が多い)


3.もともと易出血性疾患があったり、脳梗塞・狭心症などの予防の薬 ( 抗凝固薬 ) を飲んでいる


4.水頭症に対する短絡術などの術後


5.透析を受けている


などがあげられます。

ここで注意しなくてはならないのは頭部打撲後すぐには症状が出てこないことです。直後に大丈夫だからといって安心はできません。

 

血腫が脳を圧迫すると様々な症状がみられます。典型例では頭部打撲後、数週間の無症状期を経て頭痛、嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状、片側の麻痺(片麻痺)やしびれ、痙攣、言葉がうまく話せない(失語症)、認知症や意欲の低下などの精神障害とさまざまな神経症状が見られます。

 

これらの症状は年代によってかなり差がみられ、若年者では主に頭痛、嘔吐を中心とした頭蓋内圧亢進症状、加えて片麻痺、失語症を中心とした局所神経症状がみられます。

 

一方、高齢者では潜在する脳萎縮により頭蓋内圧亢進症状は少なく、認知症などの精神症状、失禁、片麻痺(歩行障害)などが主な症状です。元々認知症や麻痺のある人は発症してもわかりにくく、普段より元気がない、程度のこともあります。

 

比較的急に認知症状の進行が見られた場合には慢性硬膜下血腫を疑うことも重要です。

 

確定診断には頭部 CT を用い、治療としては外科的治療 ( 穿頭血腫除去術 ) が必要です。


高齢化社会のなかで慢性硬膜下血腫は増加傾向にあります。しかし本疾患のほとんどは、正しく診断がなされタイミングを逸することなく治療が行われれば完治する予後のよい疾患です。身近に頭部を打撲した人(特に高齢者)がいる場合、周囲の人はしばらくの間その人に変わった様子がないかどうか見守ってあげてください。もし異変があれば直ちに医療機関を受診するように勧めてください。